小川 未明

北海の白鳥

上

昔、ある国に金持ちの王さまがありました。その御殿はたいそうりっぱなもので、ぜいたくのあらんかぎりを尽くしていました。支那の宝玉や、印度の更紗や、交趾の焼き物や、その他、南海の底から取れたさんごなどで飾られていました。そしてそのほか、古酒のつぼが並べられてあり、美しい女は、花のように御殿にいて王さまのお相手をして、琴や、笛や、妙なる鳴り物の音と朗らかな歌の声は、夜となく昼となく、雲間に洩れたのであります。

王さまは、まったく幸福でありました。かつて、不幸ということをお知りにならなかったのです。ちょうどそのころ、東の国から薬売りが、「これは支那の昆崙山にあった、不老不死の薬でございます。」といって、献上したので、王さまはいままで、年をとり死をおそれていられたのに、幸い不思議な妙薬を得て、その憂いがなくなり、ますます幸福に日をお送りなされていました。なんでもその薬を奉ったものは、莫大のお金を頂いて、どこへかいってしまったそうであります。

するとここに、怪しげなようすをしたものが、この国にさまよってきました。このものは、人間の運命を占って、行く末のことを語るのです。なんでもこのものの生国は西蔵だということでありますが、幾歳になるかわからないような人間でありました。脊は低く、目の光は、きらきらと光っていました。

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