小川 未明

春がくる前

さびしい野原の中に一本の木立がありました。見渡すかぎり、あたりは、まだ一面に真っ白に雪が積もっていました。そして、寒い風が、葉の落ちつくしてしまった枝を吹くのよりほかに、聞こえるものもなかったのです。

木は、こうして毎日、長い寒い冬の間、さびしいのを我慢していました。それにつけても、過ぎ去った春、夏、秋の間のいろいろ楽しかったこと、おもしろかったことを思い出していたのであります。

その中でも、くびのまわりの赤い鳥が、枝に巣を造って、三羽の雛をかえして、三羽の雛が仲よく枝から枝へ飛びうつっていましたのを、木は忘れることができませんでした。

「いまごろは、あの親子の鳥はどこへいったろう。さだめし暖かな土地へいって、ああして、楽しくさえずったり、飛びまわったりしているであろう。そして、また、こちらが春になって暖かになったら、忘れずにやってくるかもしれない。そのときは、もう三羽とも雛鳥は、大きくなっていることだろう。」と、木は思いました。

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