小川 未明

小さな赤い花

おそろしいがけの中ほどの岩かげに、とこなつの花がぱっちりと、かわいらしい瞳のように咲きはじめました。

花は、はじめてあたりを見て驚いたのであります。なぜなら、目の前には、大海原が開けていて、すぐはるか下には、波が、打ち寄せて、白く砕けていたからであります。

「なんというおそろしいところだ。どうしてこんなところに生まれてきたろう。」と、小さな赤い花は、自分の運命をのろいました。それはちょうど、寒い雪の降る国に生まれたものが、暖かな、いつも春のような気候の国に生まれなかったことを悔い、貧乏な家に生まれたものが、金持ちの家に生まれて出なかったことをのろうようなものであります。

けれど、それはしかたがないことでありました。とこなつの花は、そこに生い立たなければならぬのでした。花は、ものこそたがいにいい交わしはしなかったが、自分の周囲にも、ほかの高い木や、低い木や、またいろいろな草が、やはり自分たちの運命に甘んじて黙っているのを見ますと、いつしか、自分もあきらめなければならぬことを知ったのであります。

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