小川 未明
気まぐれの人形師
一
雪の降らない、暖かな南の方の港町でありました。
ある日のこと、一人の娘は、その町の中を、あちらこちらと歩いていました。しばらく避寒に、こちらへやってきていたのですけれど、あまり日数もたちましたので、お父さんにつれられて、また北の方の故郷へ帰ろうとしました。その前日のこと、娘は、つぎには、いつくるかわからない、このなつかしい町の有り様をよく見ておこうと、こうして歩いていたのであります。
町の郊外には、丘の上に、圃の中に、オレンジが、美しく、西日に輝いていました。青黒い、厚みのある葉の間から、黄色い宝石で造られた珠のように見られました。また、波の静かな港の口には、いくつも船が出たり入ったりしていました。遠くへいく汽船は、おっとりとうるんだ、黄昏方の空に、黒い一筋の煙を上げていました。そして、高いほばしらの頂には、赤い旗が、ちょうど真っ赤な花のように風にゆらめいていました。