小川 未明
つばきの下のすみれ
一本のつばきの木の下に、かわいらしいすみれがありました。そのつばきの木は、大きかったばかりでなくて、それは真紅な美しい花を開きました。この花を見た人は、だれでも、きれいなのをほめないものはなかったほどであります。
「まあ、なんというみごとな花だろう。」といって、みんなは、そのつばきの木の周囲をまわり、火のもえたつような花に見とれました。
すみれは、やはり、そのころ、紫色のかわいらしい花を咲いたのです。しかし、この大きなみごとなつばきの木の下にあっては、人の目に入るにはあまりに小さかった。あわれなすみれは、それで、心なしに歩く人々から、頭をふまれたのです。
せっかく、春に遇うて、これからはなやかな、暖かい太陽の光を浴びて、ちょうや、みつばちの歌を聞いて、楽しい日を送ろうと思っているまもなく、花も、葉も、ふみにじられて、見る影もなくなってしまいました。