小川 未明

汽車の中のくまと鶏

ある田舎の停車場へ汽車がとまりました。その汽車は、北の方の国からきて、だんだん南の方へゆくのでありました。どの箱にも、たくさんな荷物が積んでありました。どこかの山から伐り出されたのであろう、材木や掘り出された石炭や、その他いろいろなものがいっぱいに載せられていました。その中の、一つの箱だけは、扉がひとところ開いていました。そして、その中には、黒い鉄のがっしりしたかごの中に、一頭の大きなくまが、はいっていました。

北の寒い国で捕らえられた、この力の強い獣物は、見せ物にされるために、南の方へ送られる途中にあったのです。しかし、くまには、そんなことはわかりませんでした。ただ太い鉄棒でつくられたかごの中へ入れられて、そのかわいらしい円い目で、珍しそうに、移り変わってゆく、外の景色をながめていたのでありました。このくまにも、親や兄弟はあったのでありましょう。しかし、それらは、いま険阻な山奥に残っていて、捕らえられたくまのことを思い出しているかもしれませんが、そのくまの故郷は、だんだん遠くなってしまったのです。このくまも、やはり毎日駆けまわった山や、谷や、河のことを思い出しているのかもしれませんでした。そのとき、ちょうど停車場の構内に、鶏が餌をさがしながら歩いていました。ふと鶏は頭をあげると、貨車に鉄のかごがのせられてあって、その内から真っ黒な怖ろしい動物が、じっと円い光る目で、こちらを見ているのに出あってびっくりいたしました。鶏は、コッ、コッ、といって、友だちを呼ぼうとしました。すると、くまは、穏やかに話しかけました。

「私は、おまえさんをどうしようとするのでない。こんなかごの中へはいっ

青空文庫の作品カード