小川 未明
雪の上のおじいさん
ある村に、人のよいおじいさんがありました。ある日のこと、おじいさんは、用事があって、町へ出かけました。もう、長い間、おじいさんは、町に出たことがありませんでした。しかし、どうしてもいかなければならない用事がありましたので、つえをついて、自分の家を出ました。
おじいさんは、幾つかの林のあいだを通り、また広々とした野原を過ぎました。小鳥が木のこずえに止まって鳴いていました。おじいさんは、おりおりつえをとめて休みました。もう、あたりの圃はさびしく枯れていました。そして、遠い、高い山々には、雪がきていました。おじいさんは早く町へいって、用事をすまして帰ろうと思いました。
村から、町までは、五里あまりも隔たっていました。その間は、さびしい道で、おじいさんは、あまり知っている人たちにも出あいませんでした。
やっと、おじいさんは、昼すこし過ぎたころ、その町に入りました。しばらくきてみなかった間に、町のようすもだいぶ変わっていました。おじいさんは、右を見、左をながめたりして、驚いていました。それもそのはず、おじいさんは、めったに村から出たことがなく、一日、村の中で働いていたからであります。