小川 未明
くもと草
ちょうど赤ちゃんが、目が見えるようになって、ものを見て笑ったときのように、小さな花が道ばたで咲きました。
花の命は、まことに短いのであります。ひどい雨や、強い風が吹いたなら、いつなんどきでも散ってしまわなければならない運命でありました。
しかし、このはかない間が、花にとってまたこのうえの楽しいことがないときだったのです。晴れやかな陽の顔も、またあのやわらかな感じのする雲の姿も、みつばちのおとずれも、その楽しいことの一つでありましたが、その中にもいちばん喜ばしい心の踊ることは、美しいちょうのどこからか、飛んできて止まることでありました。
この道ばたに咲いた小さな花は、この世の中に、ぱっとかわいらしい瞳を開いたときからどんなに、ちょうのくることについて空想したかしれません。