小川 未明
春になる前夜
すずめは、もう長い間、この花の国にすんでいましたけれど、かつて、こんなに寒い冬の晩に出あったことがありませんでした。
日が西に沈む時分は、赤く空が燃えるようにみえましたが、日がまったく暮れてしまうと、空の色は、青黒くさえて、寒さで音をたてて凍て破れるかと思われるほどでありました。どの木のこずえも白く霜で光っています。ものすごい月の光が一面に、黙った、広い野原を照らしていたのでありました。
すずめは、一本の枝に止まって、この気味悪い寒い夜を過ごそうとしていたのです。そのとき、ちょうど下の枯れた草原を、おおかみが鼻を鳴らしながら通ってゆきました。
山にも、沢にも、もはや食べるものがなかったので、おおかみはこうして飢じい腹をして、あたりをあてなくうろついているのです。すずめはそれを毎夜のように見るのでした。おおかみも今夜は寒いとみえて、ふっ、ふっと白い息を吐いていました。そして、氷の張った水盤のような月に向かって、訴えるようにほえるのでありました。