小川 未明
水盤の王さま
去年の寒い冬のころから、今年の春にかけて、たった一ぴきしか金魚が生き残っていませんでした。その金魚は友だちもなく、親や、兄弟というものもなく、まったくの独りぼっちで、さびしそうに水盤の中を泳ぎまわっていました。
「兄さん、この金魚は、ほんとうに強い金魚ですこと。たった一つになっても、元気よく遊んでいますのね。」と、妹がいいました。
「ああ、金魚屋がきたら、五、六ぴき買って、入れてやろうね。」と、兄は答えました。
ある日のこと、あちらの横道を、金魚売りの通る呼び声が聞こえました。