中沢 臨川

愛は、力は土より

M市の一隅にある城山の小高い丘を今私は下りて来た。初夏の陽はもう落ち尽して、たゞその余光が嶮しい連山の頂を、その雪の峯を薄紫に照してゐた。眼の下の街々は僅かに全体の輪郭だけを残して、次第々々に灰色の空気につゝまれて行つた。

妙に心の落着く夕暮であつた。私は徐かに足を運んだ。別に行き逢ふ人もないのに、殊更迂路をして、白い野薔薇のところ/″\咲いてゐる小径を択つて歩いた。『別に急ぐことはない。急いだつて同じことだ』

かうした淋しいやうな、なつかしいやうな、一種絶望的な、或は落ちつき払つた考が私の心を私の歩みにつれて牽いた。次第に私の眼には涙が浮んだ。少年の頃によく経験したことのあると同じやうな純な敬仰の心がふと燃え上つた。その時自分の頭に『生命の故郷』といふ詞が一つの尊い啓示が何かのやうに閃いた。なつかしい詞だ。久しく忘れてゐた詞だ。少年の頃よく穉い詩を作つた折に屡々使つた詞だ。

生命の故郷!

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