小林 多喜二

北海道の「俊寛」

十一月の半ば過ぎると、もう北海道には雪が降る。(私は北海道にいる。)乾いた、細かい、ギリギリと寒い雪だ。――チヤツプリンの「黄金狂時代」を見た人は、あのアラスカの大吹雪を思い出すことが出来る、あれとそのまゝが北海道の冬である。北海道へ「出稼」に来た人達は冬になると、「内地」の正月に間に合うように帰つて行く。しかし帰ろうにも、帰れない人達は、北海道で「越年(おつねん)」しなければならなくなるわけである。冬になると、北海道の奥地にいる労働者は島流しにされた俊寛のように、せめて内地の陸の見えるところへまでゞも行きたいと、海のある小樽、函館へ出てくるのだ。もう一度チヤツプリンを引き合いに出すが、「黄金狂」で、チヤツプリンは片方の靴を燃やしてしまつたので、藁か布切れかでトテモ大ツかく足を包んでいた。今いうその出てくる者達が、どれもそれとそつくり同じ「足」をしているのだ。

夏の間彼等は棒頭にたゝきのめされながら「北海道拓殖のために!」山を崩した。熊のいる原始林を伐り開いて鉄道を敷設した。――だが、雪が降ると、それ等の仕事が出来なくなる。彼等は用がなくなるのだ。そうなると、汽車賃もくれないで、オツぽり出される。小樽や函館へ出てくるのはこういう人達なのだ。

雪の国の停車場は人の心を何か暗くする。中央にはストーヴがある。それには木の柵がまわされている。それを朝から来ていて、終列車の出る頃まで、赤い帽子をかぶつた駅員が何度追ツ払おうが、又すぐしがみついてくる「浮浪者」の群れがある。雪が足駄の歯の下で、ギユンギユンなり、硝子が花模様に凍てつき、鉄物が指に吸いつくとき、彼等は真黒になつたメリヤスに半纏

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