橘 外男

陰獣トリステサ

殺人者の手記

「被告! 被告は自己のために、何か最後の陳述をしたいという意志はないか?」と裁判長は紙とペンをくれて、私に最後の陳述の機会を与えてくれた。その機会を利用して、今私は獄窓にペンを走らせているわけであるが、これが法廷に対する私の告白であるか、犯した罪に対する懺悔であるか、あるいは私の死後にこれを読んでくれるであろう一般社会に対する私の挑戦であるかは、見る人々の判断に任せるとしよう。

が、しかし、いくら声を嗄らして絶叫しても、到底まともには信じてもらえぬであろう、この奇怪極まる私の運命を手記せんがためには、まず私の事件の載っている当時の一連の新聞記事を採用して、何が故に現在私が獄裡に繋がれているかということを、明らかにしておく必要があると思われる。いずれも私の頼みを容れて看守長のドン・カルロスがそうっと差し入れてくれたものであるが、まず初めに四月二十三日のエキセルシオール紙。

「富豪邸の猟奇殺人事件! 全裸の若き美夫人、鮮血を浴びて寝台上に虐殺さる」と煽情的な冒頭を掲げて、まだその上に御丁寧にも、「犯人は夫、銀行家ロドリゲス・アレサンドロ氏! 嗜虐性色情狂の本性を暴露か?」と小傍題まで打っている。もちろん言うまでもない。このロドリゲス・アレサンドロというのが、私の本名であった。

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