浜尾 四郎
正義
「ほう、すると君は今日あの公判廷に来て居たのか。……そうだったのか」
「ええ、あの事件の初めから終りまで傍聴して居ました。あの、あなたが弁護してやってる森木国松っていう被告人ですね、あれが松村子爵を殺したとは僕にも一寸考えられませんよ。……あの事件当時、僕はずい分詳しく新聞を読んで居たんですがね」
「そうかね、僕は君のような芸術家があんな殺伐な犯罪事件に興味をもってるとは思わなかった」
衣川柳太郎は、こう云いながらシガレットを灰皿にポンと捨てた。そうして前においてあった紅茶の茶碗を取上げて、すすりながら、今更らしく相手の顔にしげしげと見入った。