国木田 独歩

夜の赤坂

東京の夜の有様を話して呉れとの諸君のお望、可しい、話しましよう、然し僕は重に赤坂区に住んで居たから、赤坂区だけの、実地に見た処を話すことに致します。

先づ第一に叔母様などは東京を如何にか賑かな処と思つて、そろ/\と自分の眼で自分の景色を形つて居なさるだらうが、実地見ると必定その想像の違つて居たことに驚かれるだらうと思ふ。京にも田舎ありとはよく言つた諺で、赤坂は先づ京の田舎です。此田舎が東京には沢山にあるので、叔母様達の想像して居るやうな、画に書いてあるやうな処は東京十五区の中、幾ヶ所もないのであります。

其中にも赤坂はさみしい処で、下町、則ち京橋や日本橋に住んで居る者は、狐や狸の居る処と心得て居る位。実際又た狐狸の居さうな処がいくらもあるのです。

夜になると赤坂で、賑かな処と言ふべきは、たゞ田町、一木、新町、先づ此位で、あとは極く淋しい処ばかりです。

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