葉山 嘉樹

工場の窓より

一

兄弟よ! もう眼を覚さなければならない。午前五時だ。起きて工場へ働きに行かねばならぬ。さうしないと人類は物資の欠乏に苦しむから。おとなしくわれ等は待たう。今までも待つたやうに。軈て資本家達も良心を眼覚すであらうから。

また兄弟よ。われ等も心の眼をもつとはつきり覚さうではないか。理想の光が天空一杯に輝いてゐるではないか、「愛」の波が悠久な姿で静かに工場の裾を洗つてゐるではないか。自然がわれ等に啓示する神の思想や愛を、労働のあらゆる刹那、十五分の休みに、冷たい水のやうに心地よくわれ等は飲み込むことが能きる。

兄弟よ! 労働は幹なる哉。われ等は工場で死の危険と面接し、家庭に帰つて貧窮と握手をする。兄弟よ。これ等のことは苦しいことである。けれどもこの苦しみの中に人類の進む道が残されてゐる。何故つて兄弟よ。貧窮と苦痛とのある処にだけ虔譲と愛とが残されてあるからだ。

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