和辻 哲郎

鎖国

序

この書は近世初頭における世界の情勢のなかで日本の状況・境位を考察したものである。著者はその境位の特徴を最も端的に現わすものとして「鎖国」という言葉を選んだが、それはここでは「国を鎖ざす行動」を意味するのであって、「鎖ざされた国の状態」を指すのではない。後者は前者の結果として現われたものであり、また目下のわが国の情勢を考察するに際して参考となるべき多くの問題を含んでいるが、しかしそれはまた別の取扱いを必要とするであろう。

この書の内容をなす個々の事項は、それぞれの専門家によって既に明らかにされていることのみであって、何一つ著者が新しく発見したことはない。しかし、それらの数多くの事項をこの書のような聯関において統一し概観するということは、恐らく初めての試みであると思う。著者は日本倫理思想史を考究するに当ってその種の概観の必要を痛感し、頻りにそういう著述を求めたのであったが、得られなかった。偶々戦時中、東京大学文学部の著者の研究室において、「近世」というものを初めから考えなおして見る研究会を組織し、西洋と東洋とに手を分けて、十人ほどの仲間といろいろとやって見たとき、著者にほぼ見とおしがついて来たのである。その際西洋の側では山中謙二教授、金子武蔵教授、矢嶋羊吉教授、日本の側では古川哲史教授、筧泰彦教授、日本キリシタンについては勝部真長教授から多くの益を得た。爆撃下の東京において、或は家を焼かれ、或は饑に苦しみながら、この探究の灯を細々ととぼし続けたことに対し、右の同僚諸氏に深く感謝の意を表したい。

本書の前篇の資料として著者が使ったのはたかだか Hakluyr Society の叢

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