チェーホフ アントン
ねむい
夜ふけ。十三になる子守り娘のワーリカが、赤んぼの臥ている揺りかごを揺すぶりながら、やっと聞こえるほどの声で、つぶやいている。――
ねんねんよう おころりよ、
唄をうたってあげましょう。……
聖像の前に、みどり色の燈明がともっている。部屋の隅から隅へかけて、細引が一本わたしてあって、それにお襁褓や、大きな黒ズボンが吊るしてある。燈明から、みどり色の大きな光の輪が天井に射し、お襁褓やズボンは、ほそ長い影を、煖炉や、揺りかごや、ワーリカに投げかけている。……燈明がまたたきはじめると、光の輪や影は活気づいて、風に吹かれているように動きだす。むんむんする。キャベツ汁と、商売どうぐの靴革のにおい。