チェーホフ アントン

女房ども

ライブージ村の教会の真向うに、石を土台にした鉄板葺きの二階家がある。階下には、ヂューヂャというのが通り名の、この家の主人フィリップ・イ※(濁点付き片仮名ワ、1-7-82)ーノフ・カーシンが家族と一緒に住んでいる。二階は、夏はひどく暑くて冬はひどく寒いが、旅の官吏や商人や地主達が来て泊る。ヂューヂャは土地を貸したり、街道の小料理屋を経営したり、タールや蜂蜜から、家畜、鵲まで商って、もう千八百ほど蓄め込んだ。それは町の銀行に預けてある。

長男のフョードルは工場の技師長をしている。百姓たちの言草によると、えらく出世をしたもので、今じゃ手も届かない。フョードルの妻のソフィヤは、器量のわるい病身な女で、舅の家に住んでいる。いつも泣いてばかりいて、日曜ごとに病院へ療治をして貰いに行く。ヂューヂャの二番目の息子は傴僂のアリョーシカで、親父の家に暮らしている。つい此の間、或る貧乏な家から※(濁点付き片仮名ワ、1-7-82)ル※(濁点付き片仮名ワ、1-7-82)ーラという嫁を貰った。これは若い器量好しで、健康でお洒落が好きである。役人や商人達が泊まるとき、お声掛りでサモ※(濁点付き片仮名ワ、1-7-82)ルを出したり床を敷いたりするのは、いつもこの※(濁点付き片仮名ワ、1-7-82)ル※(濁点付き片仮名ワ、1-7-82)ーラである。

ある六月の夕方、日が沈みかけて、空気には乾草や、まだ湯気の立つ家畜の糞や、搾り立ての牛乳の匂いがする頃、ヂューヂャの家の庭先に質素な馬車がはいって来た。三人の男がそれに乗っている。ズックの服を着た三十がらみの男。それと並んで、大きな骨ボタンの附いた黒い長上衣を着た十

青空文庫の作品カード