小川 未明

兄の声

おかあさんは、ぼくに向かって、よくこういわれました。

「小さいときから、おまえのほうは、気が強かったけれど、にいさんはおとなしかった。まだおまえが、やっとあるける時分のこと、ものさしで、にいさんの頭をたたいたので、わたしがしかると、いいよ、武ちゃんは、小さいのだものといって、にいさんは、おこりはしなかった。ほんとうに、がまん強い子でした。」

ぼくは、そうきくと、物心のつかない幼時のことだけれど、なんとなく、いじらしい兄のすがたが目に浮かんで、悲しくなるのです。

兄が召集されてから、後のことでした。

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