小川 未明
汽車は走る
春風が吹くころになると、窓のガラスの汚れがきわだって目につくようになりました。冬の間は、ほこりのかかるのに委していたのです。裁縫室の窓からは、運動場の大きな桜の木が見えました。
「あの枝に花が咲くのは、いつのことか。」と、ちらちらと雪の降る日に、外をながめながら思ったのが、はや、くっきりと枝全体にうす紅色を帯びて、さんご樹を見るような気がするのです。そして、一つ一つの、つばみがふくらんで、ぷつぷつとして、もうそれが開くのも間のないことでありました。かよ子は、このごろ、裁縫をしながら、ときどき思い出したように頭を上げて、外をながめるのが楽しみでありました。
「ねえ、みんなで、窓のガラスをふきましょうよ。」
こういい出したのは、かよ子でありました。