小川 未明

しいたげられた天才

獣の牙をならべるように、遠く国境の方から光った高い山脈が、だんだんと低くなって、しまいに長いすそを海の中へ、没していました。ここは、山間の、停車場に近い、町の形をした、小さな村でありました。

その一軒の家へ、戦時中に、疎開してきた、家族がありました。からだの弱そうな男の子が、よく二階の窓から、ぼんやりと、彼方の山をながめて、なにか考えていました。季節が秋にはいると、どこからともなく、渡り鳥があかね色の夕空を、山の上高く、豆粒のように、ちらばりながら、飛んでいくのが見えました。子供は、鳥影のまったく空の中に吸い込まれて、見えなくなるまで見送っていました。やがて日が暮れてしまうと、さらさらと音をたて、西風が、落ち葉を雨戸に吹きつけるのです。

「お母さん、いつ、東京へ帰るの。」と、子供は聞くのでした。

あかりの下で、冬の着物の手入れをしていた、母親は、

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