小川 未明
谷間のしじゅうから
春のころ、一度この谷間を訪れたことのあるしじゅうからは、やがて涼風のたとうとする今日、谷川の岸にあった同じ石の上に降りて、なつかしそうに、あたりの景色をながめていたのであります。
小鳥たちにとって、この二、三か月の間は、かなり長い間のことでありました。そのときは、やっと雪の消えたばかりで、見るものがすべて希望に燃え立っていきいきとしていました。しじゅうからは、葉のしげったかしの木を見つけて、巣をかけようかと、友だちと枝の間を飛びまわっていました。日光の射しぐあいなどをしらべなければならなかったからです。
すると、かしの木は、不平らしい顔つきをして、
「承諾なしに、私の枝へ巣をかけてはいけません。」といいました。