小川 未明
どこかで呼ぶような
わたくしが門を出ると、ちょうど、ピイピイ、笛をならしながら、らお屋が、あちらのかどをまがりました。
わたくしは、あの音を聞くと、なんとなく、春さきの感じがします。どこへ遊びにいくという、あてもなかったので、足のむくまま原っぱへきました。知らぬまにとなりのペスが、ついてきました。どうしたのか、きょうは、だれのかげも見えませんでした。
風のない、おだやかな空は、どんよりとうるんで、足もとの枯れ草は、ふかふかとして、日の光にあたたまっていました。その太陽のにおいをなつかしむように、わたくしは、ごろりとからだをなげだしました。ペスも、かたわらへ、前足をのばして、うずくまりました。
しばらくすると、遠くの方から、オートバイの走ってくる音がしました。ペスは、はねおきて、往来のまん中へ出て、ほえたてました。