小川 未明

万の死

万は正直な、うらおもてのない人間として、村の人々から愛されていました。小学校を終えると、じきに役場へ小使いとしてやとわれました。彼は、母親の手一つで大きくなりましたが、その母も早く死んだので、まったくひとりぽっちとなりました。こんなことが、人々の同情をそそるのでありましょう。どこへいっても、きらわれることなく、日を送りました。

「おまえさんも、早くお嫁さんをもらうのだな。」と、ひとりぽっちの彼を心からあわれんで、いってくれるものもありましたが、

「私には、まだそんな気持ちはありません。」と、万は、頭をふりました。それには、早いからという意味ばかりではありません。始終不自由をして、貧しく死んでいった母親のことを思うと、すこしの楽しみもさせずにしまったのを、心から悔いるためもありました。

彼の母は、じつにやさしかったのです。彼が父親と早く別れたので、その不憫もあったのでしょうが、また、この世の中に母一人、子一人としてみれば、たがいにいたわりあうのが、むしろ、ほんとうの情けでもありました。

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