小川 未明

道の上で見た話

いつものようにぼくは坂下の露店で番をしていました。

このごろ、絵をかいてみたいという気がおこったので、こうしている間も、物と物との関係や、光線と色彩などを、注意するようになりました。また坂の上方の空が、地上へひくくたれさがって、ここからは、その先にある町や、木立などいっさいの風景をかくして、たとえば、あの先は海だといえば、そうも思えるように、いくらも空想の余地あるおもしろみが、だんだんわかってきました。

その日は、からっとよく晴れていました。ただおりおり風が、砂ぼこりをあげて、おそいかかるので、気持ちがおちつかなかったけれど、毎年、夏のはじめには、よくある現象でした。

ちょうど、若い女が、店の前へ立って、石けんを見ていましたが、ここをはなれて、あちらへいきかけたときです。とつぜん、坂の上から、おそろしい突風が、やってきて、あっというまに、女のさしている日がさをさらって、青空へ高く、風車のように、まきあげました。それは、またはなやかなアドバルーンのようにも、糸が切れた風船玉のようにも、うすべに色をして、美しかったのです。そして、日がさは、くるりくるりとまわりながら、あてもなく飛んでいくのでした。

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