小川 未明
夕焼けがうすれて
汽笛が鳴って、工場の門をでるころには、日は西の山へ入るのでありました。ふと、達夫は歩きながら、
「僕のお父さんは、もう帰ってこないのだ。」と、頭にこんなことが思い浮かぶと、いつしかみんなからおくれて、自分は、ひとりぼんやりと、橋の上に立っていました。
もはや通る人もありません。水は海の方へ向かって流れています。広告燈の赤い光が、川水のおもてに映っていました。
「いつか、お父さんに海へつれていってもらった。帰りは、暗くなった。そして、電車の窓から、あの広告燈が見えたっけ、あのときは楽しかったなあ。」