小川 未明
世の中のために
毎日雨が降りつづくと、いつになったら、晴れるだろうと、もどかしく思うことがあります。そして、もうけっして、この雨はやまずに、いつまでもいつまでも降るにちがいないと、一人できめて、曇った空を見ながら、腹立たしく感じ、あの空へ向かって、大砲でも打ってみたらと空想することがあります。
「どうした天気だろうな。」と、人の顔を見さえすればうったえるのでした。
ところが、とつぜん、雲が切れて、青い空がのぞき、黄金色の矢のような、日の光がさすと、さっきまでのゆううつが、どこかあとかたもなく消えてしまって、心までが別人のごとく変わるのでした。
きれいにすみわたった空の下では、あの曇った日にいだいた、ゆううつな思いを、二度味わってみたいと思っても、どうなるものでもありません。しかし、こんなことは、どうだっていいのです。ところが、僕は、ふと空想に浮かんだ、ある重大な問題をどうかしたはずみに忘れてしまったのです。それは忘れたですまされない、自分の一生を左右するとまで考えたものだけに、どうしても、もう一度それを思い出さなくてはならなかったのでした。そして、思い出すまで、僕は、毎日ゆううつな日を送りました。