小川 未明
動く絵と新しき夢幻
時間的に人事の変遷とか、或は事件の推移を書かないで、自分の官能を刺戟したものを気持で取扱って、色彩的に描写すると云うことは新らしき文芸の試みである。
だから、それは時間的と云うよりは寧ろ空間的に書くことになる。元来これは絵画の領域に属するもので、絵画の上ではあらゆる物象だの、影だのを色彩で以て平たい板の上に塗るので、時間的に事件を語っているものではない。併し、それが最近の色彩派になって来ると、絵画が動くようなところに進んでいると思う。
例えば海の水を描くとか、或は真夏の山を描くとか、又は森の深緑に光線の直射しているところを描くとか、それ等は真実動いているように見える。けれども、それに依って刹那の前後の気持は現われても、それ以上時間的に現わすと云うことは、どうも絵画の領域でないように思われる。
この絵を描くと云うような気持で、更に想像的に作者の気持を文章の上に於て書き得ると信ずる。それが即ち文芸上の色彩派の行き方である。筋とか、時間的の変遷とか云うものを描くのではなくて、そこに自分が外界から受け得た刺戟とか、胸の中の苦悶とかを象徴的に映出するのである。それには無論強烈な色彩を以てしなければならないと思う。