小川 未明

舞子より須磨へ

舞子の停車場に下りた時は夕暮方で、松の木に薄寒い風があった。誰も、下りたものがなかった。松の木の下を通って、右を見ても、左も見ても、賑かな通りもなければ、人の群っているのも目に入らない。海は程近くあるということだけが、空の色、松風の音で分るが、まだ海の姿は見えなかった。私は、松並木のある、長い通りを往ったり、来たりして、何の宿屋に泊ろうかと思った。ちょうど、一軒の一品料理店の前に、赤い旗が下っていた。其の店頭に立っていた女に、

『舞子の町は、何の辺ですか』と聞いた。女は淋しそうな顔をしていた。

『町って、別にありません』

これが、舞子か……と私は、思っていたより淋しい処であり、斯様処なら、越後の海岸に幾何もありそうな気がした。

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