小川 未明
草木の暗示から
目の醒めるような新緑が窓の外に迫って、そよ/\と風にふるえています。私は、それにじっと見入って考えました。なんという美しい色だ。大地から、ぬっと生えた木が、こうした緑色の若芽をふく、このことばかりは太古からの変りのない現象であって、人がそれに見入って、生の喜びを感ずる心持も、また幾百千年経っても、変りがないと思われました。
なんにも其処には理屈がないのです。たゞ美しいと思えば、それでいゝ、そして人間は、幾何もない生を存分に享楽することが出来れば、それでいゝのであります。
しかし、今の世の中で、この春に遇って、木々の咲く、花を眺め、この若やかな、どんな絵具で描いてみても、この生命の跳る色は出せないような、新緑に見入って、意味深い自然に対して、掬み尽されない慈愛を感ずる人が、幾何ありましょうか。
其れを考える時、私は、また理屈なしに、不幸であるということを感ぜずにはいられないのです。こんなに忙しく、また慌しい生活を送っていたなら、ついに死ぬまでのんびりとして、この自然を楽むことなしに、死んでしまうかも知れない。