小川 未明

自分を鞭打つ感激より

田舎の小学校の庭であったが、林から独り離れて校庭の中程に、あまり大きくない一本の杉の木が立っていました。生徒等は、この木をば、目印にして鬼事をしたり、そのまわりで、遊んでいました。いつしか木の根許の土は、堅く石のようになり、その木の垂れ下った大枝は折られ、木の幹の皮は剥がれて、悲惨なものになりました。そのうちに冬が来て、雪は、その木の半分を埋めてしまった。

哀れな枝は寒い風に吹かれて、恐らく、その年のうちにも枯死するものと思われました。しかるに雪が解けて、春となって、いろ/\の木が芽ぐんだ時分、その杉の木も新緑を芽ぐんだのでした。二たび子供等は、校庭へ出て遊ぶようになりました。

その時、年とった体操の教師が、この木の下に立って、さも痛ましそうにして、皮の剥がれた幹を撫していましたが――よくこれで水を吸い上げるものだと言わぬばかりの顔をしながら――やがて、何に深く感動してか、溜息を洩らして、

「苛められる者は、強い!」と、言いました。

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