小川 未明
常に自然は語る
天心に湧く雲程、不思議なものはない。
自分は、雲を見るのが、大好きだ。そして、それは、独り私ばかりでなく、誰でも感ずることであろうが、いまだ曾て、雲の形態について、何人も、これをあらかじめ知り得るものがないということだ。
時に、流れて、帯のように細くなり、そして、いつしか煙のように消えて、始めの形すらあとにとゞめない。時に、重々として、厚さを加え、やがては、奇怪な山嶽のように雄偉な姿を大空に擡げて、下界を俯瞰する。しからざれば陰惨な光景を呈して灰白色となり、暗黒色となり、雷鳴を起し、電光を発し、風を呼び、雨をみなぎらせるのであるが、そのはじめに於て、千変万化の行動に関して、吾人のはかり知ることを許さないのが雲である。
神出鬼没の雲の動作程、美と不可知の力を蔵するものは他にあるまい。しかし、たゞ、それは、自然の意志の反映なのである。即ち、自然なるが故に、自由なのである。言い換えれば自然は、自由そのものであるからだ。