柳 宗悦
美の国と民芸
一
ちょうど科学者が少しでもこの世を真理に近づけたいと仕事に勤むように、私は生きている間に少しでもこの世を美しくしてゆきたいと念じている者です。宗教家の身になれば、どうかして神の国をこの世に具現したいと希うでしょう。同じように私は美の国をこの世に来したいばかりに、様々なことを考えまた行おうとしているのです。
それならどうしたら美によって義とせられる国が実現されるか。このことを用意するためには、どうしても二つのことが根本になると思われます。第一は何が正しい美なのかを明らかにしておかねばなりません。いわば美の標準を定めることです。これがなければ進むべき方向が分らなくなるでしょう。それも能う限り物に即してその標的を示すことが肝要に思われます。基準は具体的であることがさらに望ましいのです。抽象に止っては活きた力を齎らし難いからです。
第二にはどうしたらかかる正しい美しさでこの世を広く潤すことができるか。それを実現し得る道筋を見出さねばなりません。それには美が量に交る必要がありましょう。ですがたくさんできるものが果して美と結び合うかどうか。そのことがまず以て明らかにされねばなりません。もし不可能なら吾々の希望は果敢ない夢に過ぎなくなるでしょう。