岩野 泡鳴
泡鳴五部作
一
今夜も必らず來るからと、今度はよく念を押して置いた。然し、餘り自分ばかりで行くのもかの女並びにその家へきまりが惡い樣だから、義雄は今一文なしで困つてゐる氷峰をつれて行つてやらうといふ氣になり、薄野からの歸り足をまた渠の下宿へ向けた。
いつもの通り、案内なしであがつて行き、氷峰の二階の室のふすまを明けると、渠とお鈴とがびツくりして、ひらき直つた。お鈴はまた裁縫に行く時間をごまかし、氷峰のもとへ押しかけて來て、何かあまえてゐたところであつたらしい。
「こりやア失敬した、ね」と云つて、義雄が這入つて行き、早速飯を云ひつける樣に頼んだ。