真山 青果
茗荷畠
一
その前の晩、田住生が訪ねて来た。一昨年の暮に亡なつた湯村の弟、六郎の親友である。今度福岡大学へ行く途中とあつて立寄つた。此間の洪水で鉄道が不通ゆゑ神戸までは汽船にすると云ふ。白絣のあらい浴衣に、黒の帯、新しい滝縞の袴をシヤンと穿いて居た。お国風に衛さん衛さんと七つも違ふ湯村の名を呼んで居た。
「六郎さんが丈夫ですと、今年は一緒に大学へ来るんでした。一昨日の晩停車場でお母様が然う云つて泣かれました。」と、坐ると行也、その事を云出す。
「然うです。」と湯村は答へた。
真山 青果
一
その前の晩、田住生が訪ねて来た。一昨年の暮に亡なつた湯村の弟、六郎の親友である。今度福岡大学へ行く途中とあつて立寄つた。此間の洪水で鉄道が不通ゆゑ神戸までは汽船にすると云ふ。白絣のあらい浴衣に、黒の帯、新しい滝縞の袴をシヤンと穿いて居た。お国風に衛さん衛さんと七つも違ふ湯村の名を呼んで居た。
「六郎さんが丈夫ですと、今年は一緒に大学へ来るんでした。一昨日の晩停車場でお母様が然う云つて泣かれました。」と、坐ると行也、その事を云出す。
「然うです。」と湯村は答へた。