小川 未明
赤い実
だんだん寒くなるので、義雄さんのお母さんは精を出して、お仕事をなさっていました。
「きょうのうちに、綿をいれてしまいたいものだ。」と、ひとりごとをしながら、針を持つ手を動かしていられました。
秋も深くなって、日脚は短くなりました。かれこれするうちに、はや、晩方となりますので、あちらで、豆腐屋のらっぱの音がきこえると、お母さんの心は、ますますせいたのでありました。
ちくちくと、縫っていられますうちに、糸が短くなって糸の先が、針孔からぬけてしまったのです。お母さんは、新しい糸の先を指で細くして針の孔にとおそうとなさいました。けれど、うまいぐあいに、糸は孔にとおらなかったのです。