小川 未明

草を分けて

兄さんの打った球が、やぶの中へ飛び込むたびに辰夫くんは、草を分けてそれを拾わせられたのです。

「なんでも、あのあたりだよ。」と、兄の政二くんは指図をしておいて、自分は、またお友だちとほかの球で野球をつづけていました。

「困ったなあ。」と、思っても、しかたがなかったので、辰夫くんは、しげった草を分けて、ボールをさがしにやぶの中へ入りました。

さっきまで、はるぜみが、どこかで鳴いていました。その声が、ぴたりと止まってしまいました。

青空文庫の作品カード