小川 未明
母犬
どこから、追われてきたのか、あまり大きくない雌犬がありました。全身の毛が黒く、顔だけが白くて、きつねかさるに似て、形は、かわいげがないというよりは、なんだか気味悪い気がしたのであります。だから子供たちは、この犬を見ると、石を拾って投げつけたり、なにもしないのに、追いかけたりしました。犬はますますおどおどとして、人の顔を見れば逃げるようになりました。
ペスやポチは、みんなからかわいがられているのに、なぜ、この犬だけ、みんなからきらわれるのだろうかと、敏ちゃんは、ふと、犬を見たときに考えたのでした。自分だって、このあわれな犬をいじめたことがあるのですが、考えると、わるいことをしたような気がしたのでした。
「こんどから、僕は、もう、あの犬をいじめないことにしよう。」と、敏ちゃんは、思いました。
ところが、偶然にも、ある日、敏ちゃんのうちのお勝手もとへ、その顔だけ白い犬がやってきてのぞきました。よほど、おなかがすいていたとみえて、なにかたべるものをさがしていることがわかりました。