外村 繁

将棋の話

僕達、阿佐ヶ谷に住んでゐる友人達が中心になつて、時時将棋の会を催すことがある。

常連は井伏鱒二、小田嶽夫、上林暁、太宰治、木山捷平、古谷綱武、亀井勝一郎、中村地平君等である。時には上野から砂子屋書房主や尾崎一雄君。また一度などは遥か千葉から浅見淵君が参加したこともあつた。が、皆の腕前は非常にまづいらしく、記録係の、と言つても、ただ勝負の白丸黒丸を書くだけであるのだが、その僕が見ても、人前でうつかり将棋をさすなどとは言へないやうな人も多かつた。が、皆は、

「昨夜、どうもよく眠れなかつたのでね」

などと、一生懸命なのである。さうして口口に柄にもない言葉を言ひ合ひながら、軈て夢中になつて優勝を争ふのであつた。私はもう皆四十にも近い友人達の、そんな何事も忘れてしまつたやうな無邪気な様子を見てゐるのが好きであつた。が、井伏君は、上林君や古谷君とともに、その中では主将格で、優勝することも多かつた。

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