田中 貢太郎
仙術修業
――支那の四川省の奥で修業をしたと云うんだ。気合をかけると己の脈がとまるよ、仰向いて胸を反らして力を入れると、肋骨がばらばらになるそうだ。人間の頭位は拳で砕くことができると云っている。何んだか山師のようでもあるが、また真箇に真言の行者のようでもある。要するに怪しい男さ、と、云って市内の某警察に署長をしている私の友人が話してくれた。――
彼はもと十三の時アメリカへ往って乗馬を習い、放牧した野馬を乗りこなすのを職業としていた。片手に縄を持ち馬を走らして往って野馬を見るとその縄を投げた。わなになっている縄の端が野馬の首にかかると力を込めて地上に引き倒し、己の馬を棄ててそれに飛び乗り、茫茫たる曠原の上を疾走して馬の野性を乗り減らした。
四川省の白竜山と云う山の中だと云ったが、その位置は口にしなかった。その山へ登って仙術を修業する行者達は、僅にその位置を聞かされただけで山の中のことは一切判らなかった。彼もその行者の一人となって白竜山の麓へ往ったが、山の四方が懸崖絶壁になっていて、その中へは一歩も足を入れることができなかった。彼は木の実を喫い草の実を拾ってその麓を巡礼した。
猛獣や毒蛇に脅かされることもあった。夜は洞穴に寂寞として眠った。彼と同じような心願を持って白竜山へ来た行者の中には、麓を彷うているうちに精根が尽きて倒れる者もあった。そうした死骸に往き当ると穴を掘り、野花を供えて懇に埋めてやった。