田中 貢太郎

飛行機に乗る怪しい紳士

A操縦士とT機関士はその日も旅客機を操って朝鮮海峡の空を飛んでいた。その日は切れぎれの雲が低く飛んで、二〇メートルと云う烈しい北東の風が、水上機の両翼をもぎとるように吹いていた。下には荒れ狂う白浪が野獣が牙をむいたようになっていた。

機体は木の葉のように揺れた。それは慣れているコースではあるが、二人にとってこれほど苦しい飛行はかつてなかった。A操縦士はハンドルに、T機関士はエンジンにそれぞれ全神経を集めていた。

突風に乗ったと見えて機体がぐらぐらとなった。T機関士ははっとして眼をあげた。機体は真黒い雲の中に入っていた。

(あぶない)

青空文庫の作品カード