田中 貢太郎

海嘯のあと

壮い漁師は隣村へ用たしに往って、夜おそくなって帰っていた。そこは釜石に近い某と云う港町であったが、数日前に襲って来た海嘯のために、この港町も一嘗にせられているので、見るかぎり荒涼としている中に、点々として黒い物のあるのは急ごしらえの豚小屋のような小家であった。それは月の明るい晩であった。壮い漁師はその海嘯のために娶ったばかりの女房を失っていたが、心の顛倒がまだ収まらないし、それに女房を失った者もざらにあるので、一種の群衆心理でそれを諦めていた。

(みんな、同じことだ)

それでも壮い漁師は、その女房がまだどこかに生きていて、ひょっこりと帰って来そうに思われた。

(運じゃ、運がよかったら、助からんこともない)

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