田中 貢太郎
女の姿
明治三十年比のことであったらしい。東京の本郷三丁目あたりに長く空いている家があったのを、美術学校の生徒が三人で借りて、二階を画室にし下を寝室にしていた。
夏の夜のことであった。その晩はそのあたりに縁日があるので、夕飯がすむと二人の者は散歩に往こうと云いだしたが、一人は従わなかった。
「杖頭もないのに厭なこった」
「まあ、そんなことを云わずに往こうじゃないか、今晩はきっと美人がいるぜ」
田中 貢太郎
明治三十年比のことであったらしい。東京の本郷三丁目あたりに長く空いている家があったのを、美術学校の生徒が三人で借りて、二階を画室にし下を寝室にしていた。
夏の夜のことであった。その晩はそのあたりに縁日があるので、夕飯がすむと二人の者は散歩に往こうと云いだしたが、一人は従わなかった。
「杖頭もないのに厭なこった」
「まあ、そんなことを云わずに往こうじゃないか、今晩はきっと美人がいるぜ」