田中 貢太郎

ある神主の話

漁師の勘作はその日もすこしも漁がないので、好きな酒も飲まずに麦粥を啜って夕飯をすますと、地炉の前にぽつねんと坐って煙草を喫んでいた。

「あんなにおった鯉が何故獲れないかなあ、あの山の陰には一疋や二疋いないことはなかったが、一体どうしたんだろう」

その夜は生暖な晩であった。地炉に焚く榾の火が狭い荒屋の中を照らしていた。

「二尺位ある二疋の鯉……二尺位の鯉が二疋欲しいものだなあ」

青空文庫の作品カード