小島 烏水

高山の雪

一

日本は海国で、島国であるには違いないが、国内には山岳が重畳して、その内部へ入ると、今でも海を見たことのないという人によく出会うのは、私が山岳地の旅行で親しく知ったことである。これに反して山を(高低の差別はあるにもせよ)未だ生れてから見たことがないという人は、盲目でない限りは、殆んどないようである。これは山岳そのものの性質が立体で、遠見が利くからでもあるが、日本が全体において山岳国であることが解る。極端に言えば、日本人は国内においては、向うに山の見えないという地平線に立ったことは、未だないはずである。冬は言うまでもないとして、三月四月頃、試みに郊外に出て見給え、遠くに碧い山か、斑らな雪の縞を入れて、菜の花の末、または青葉若葉の上に、浮ぶように横たわっている。もっとも山の高低や、緯度の如何に随って雪の多少はあるが、高山の麓になると、一年中絶えず雪を仰ぎ視る事が出来る。就中夏の雪は、高山の資格を標示する徽章である。

雪と山とは、このように密接な関係があり、山上の雪は後に説明するいわゆる「万年雪」や、氷河となっている。即ち永久に地殻の一部を作っているので、地質学者は雪を岩石の部に編入しているほどである。雪と山との合体から、雪の色が山の名になってしまった例は頗る多い。日本で一番名高いのは「越の白山」と古歌に詠まれた加賀(飛騨にも跨がる)白山(二六八七米突)である。それから日本全国中、富士山に次いでの標高を有する、私共のいわゆる日本南アルプスの第一高峰白峰(三一九二米突)がそれである。やや低い山で、割合に有名なのは、日光と上州草津に白根山(日光二二八六米突、草津二一四二米突)という同名

青空文庫の作品カード