北原 白秋
雀の卵
大序
一
「雀の卵」が完成した。いよいよ完成した。と、思ふと思はず深い溜息がつかれた。ほつとしたのである。
今、四校目の訂正をして、やつと済ましたところである。窓から見てゐると裏の小竹林には鮮緑色の日光が光りそよいでゐる。丘の松には蝉が鳴いて、あたりの草むらにも草蝉が鳴きしきつてゐる。南のバルコンに出て見ると、海がいい藍色をしてゐる。寺内の栗やかやの木や孟宗の涼しい風の上を燕が飛び翔つてゐる。雀も庭の枇杷の木の上で何かしてゐる。瀬の音もするやうだが、向ふの松風の下から浮々した笛や太鼓の囃子がきこえる。今日は盂蘭盆の十四日である。