吉川 英治

鳴門秘帖

夜魔昼魔

安治川尻に浪が立つのか、寝しずまった町の上を、しきりに夜鳥が越えて行く。

びッくりさせる、不粋なやつ、ギャーッという五位鷺の声も時々、――妙に陰気で、うすら寒い空梅雨の晩なのである。

起きているのはここ一軒。青いものがこんもりした町角で、横一窓の油障子に、ボウと黄色い明りが洩れていて、サヤサヤと縞目を描いている柳の糸。軒には、「堀川会所」とした三尺札が下がっていた。

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