吉川 英治
鳴門秘帖
お千絵様
みぞれ模様の冬空になった。明和二年のその年も十一月の中旬を過ぎて。
ここは江戸表――お茶の水の南添いに起伏している駿河台の丘。日ごとに葉をもがれてゆく裸木は、女が抜毛を傷むように、寒々と風に泣いている。
虱しぼりの半手拭を月代に掛けて、継の当った千種の股引を穿き、背中へ鉄砲笊をかついだ男が、
吉川 英治
お千絵様
みぞれ模様の冬空になった。明和二年のその年も十一月の中旬を過ぎて。
ここは江戸表――お茶の水の南添いに起伏している駿河台の丘。日ごとに葉をもがれてゆく裸木は、女が抜毛を傷むように、寒々と風に泣いている。
虱しぼりの半手拭を月代に掛けて、継の当った千種の股引を穿き、背中へ鉄砲笊をかついだ男が、