吉川 英治
随筆 新平家
はしがき
どうも、序文というよりは、これは“おことわりがき”になりそうです。
なにしろ、この中に収められた随想や紀行文の一切は、後になって、こんな単行本として纏められるつもりなどはちっともなく、ただ、その時々の必要やら感興やら、また長年にわたる読者のおたずね等に応えるために書いたりしたものが、あらましですから、いま一書として編録されたのを見ますと、まことに布置や祖述の首尾も体を成しておりません。
いってみれば「新・平家物語」を書きつつあった七年間の副産物にすぎないのです。ですから、完結直後にすぐ別巻として出すような企画もあったのですが、つい私として気のりせず、のびのびにしていたのでした。ところがその後もしきりに、問いあわせて来られる要望も絶えませんし、かたがた、二十四巻という著には、一冊の補遺をかねた著者随感の添加されるぐらいなことは、あった方がむしろ自然で、また主巻を読まれた人々の興を扶けもしようなどといわれて、ではと、ついに出版していただくことになったのです。